2012年12月06日
第9回 映画 「アルゴ」

そりゃあ最初はびっくりしますよ信じられないでしょう、公開処刑の恐怖におののいているところへ、でっちあげ映画の製作スタッフになりきって国外脱出、なんてシナリオ聞かされたら。なあんかやる気なさそうな登場のしかただったしベン・アフレック、一見無気力ふう、というか、一貫してシニカルで。でもしかし、いったんこれ、と心を定めたときの行動力のハンパない鮮やかさ、迷いのない前進のしかたは、さすがプロの凛々しさで。
対して彼をたすける映画人たちが、めっぽうあかるく、いやもうハリウッド評なんか、こんなこと映画でいわせていいの? という辛辣さ、国家機密にかかわりながらも、ユーモアまじりにノリノリで作戦を遂行させるかんじが、緊張感をあたえつつも、クツクツ笑わせてくれるサービス精神。
それにしても、けっこうヒヤヒヤいたしました、実話がもとになっているのだから、結末はわかっているはずなのにそれでも。敵の恐ろしさはさることながら、味方もどうやら非協力的。それでも、切迫した状況を打開するためにじょじょにひとびとが結束してゆくところに、いじらしさと頼もしさがかんじられて、終盤、やっとここまでこぎつけたのに、という場面では、まるで、よれよれだったスポーツチームが鬼コーチのもと一丸となって勝利に向かって走る、みたいな感動が。
かなり深刻な状況を描いているのだけれど、ドキュメンタリータッチとはちがう魅力もあって、なんでしょう、架空の映画と現実に直面している大事件とのつながりかた、対比のされかたが、物語に奥行きをあたえている魅力があったような。いや気づいてみれば、『アルゴ』て、そもそもでっちあげ映画のタイトルなのに、本物の映画にもなっちゃってるわけで、あれあの台本の読み合わせあの絵コンテあのストーリーて、この映画の? アルゴってギリシャ神話の船らしいけれど。
感じること考えさせられること盛りだくさん。冒頭の、事件の背景が、絵コンテで説明されるのがいささか唐突におもわれるのですけれど、これが終盤の場面になって、なんか生きてくるんですよ、もうその場面がほんと、けっこう感動的で、おもわず音をたてないように拍手してしまったぐらいで。そしてまた、いろんな皮肉や教訓みたいなものもあちこちちりばめられ、最後、どこまでが事実にもとづいているのかわかりませんが、たしかに、そんな理由で作戦が危うくなるかもしれない、という、苛立たしさ馬鹿馬鹿しさ。
スピード感もなかなか、衝撃作『ユナイテッド93』の雰囲気さえ。ハラハラ見守る娯楽作でありながら、現実の憂うべき政治問題にも触れられて。いやまったく、ベン・アフレックはかっこいいということを初めて知りました。目の表情だけであの演技。
アルゴ 2012年 アメリカ ベン・アフレック監督作品
公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/argo/
人気作なのに、県内での上映予定がいまのところないのが残念。
Posted by eしずおかコラム at 12:00