2012年11月22日
第8回 映画 「屋根裏部屋のマリアたち」

フランスの上流家庭にスペインからお手伝いさんがやってきて、なんて、ちょっとありがちな、いくらか流行りのお話のような気もいたしますし、富める者と貧しい者の出会いとこころの交流、なんてのはもう、乱暴な言い方してしまえば掃いて捨てるほど。でも、たがいの生活習慣や、価値観についての興味と理解によって、しだいに距離をちぢめてゆくかんじは、微笑ましくて、あかるい気持ちにさせてくれる。
けっこうな社会的地位にはいるものの、どうやら親が用意してくれた人生をそのまま辿ってきたらしい男主人が、ようやく、その呪縛から解放されたタイミングでもあったのでしょうか、未知の世界を知って揺れてしまうさまが、あっけらかんと、すでに二人の少年の父親であるのにもかかわらず、まるでただの坊やのようで。それもどうやら、物数奇な親切心だけでもないらしい、というのはこの旦那サマの行動が、いささか常軌を逸してしまうところからも垣間みられて、ハハン、なるほどやっぱり思春期の男の子になってしまったわけなのね、意外なところに自分の居場所を見いだしてしまったら、もう止まらない。
おもいがけなく、異国の風にあたってしまったことで、それまでの人生に疑問をもってしまうおじさまのお話なのですが、すでにいろいろな責任を負っているはずなのにもかかわらず、それを投げ打ってしまおうとするのを、非難するつもりになれないのは、作品のテイストが、どの人物にも等しくやさしい眼差しをむけているからでしょうか、なんか奥さんの嘆きさえもどことなく深刻でないというか、意外に懐深かったりで、夫に対する愛情もむしろ親友をたいせつにしているかのような軽やかさもあって。
それにしても物語のカギを握るマリアさん、こういってはなんですが、まさに掃き溜めに鶴の可憐さ、うなじがもう、色っぽいのなんの、そりゃあどんな殿方のハートも鷲掴みのオンナっぷり、とはいえ、どうも本性というか本心というか、人生に対する姿勢がいまひとつわかりづらい物足りなさもあったりで、ロマンスの相手としては見栄えがよければそれでいいの? スペイン女の魅力としてはどちらかといえばほかのオバサマがたが勝っているような気もしたのですが、だってスペイン内乱に関する件は、かなりな知性も感じさせて、ド・ゴール政権下でのんびり暮らしていた旦那サマの目をひらかせたのは、なかなか天晴な女傑たちだったような。
お硬いフランスのひとびとが、素朴で大らかでたくましいスペインのひとたちと出会う、文化のぶつかりあいの物語でもあって。いやしかし、あんまりお気楽過ぎるのも問題らしい、という昨今のスペイン情勢があたまをよぎり、無邪気に感化されてよいものなのか……。
屋根裏部屋のマリアたち 2010年 フランス フィリップ・ル・ゲイ監督作品
公式サイト http://yaneura-maria.com/pc/
Posted by eしずおかコラム at 12:00