2012年08月23日
第3回 映画 「きっと ここが帰る場所」

ショーン・ペンが慣れた手つきでお化粧してたり、車輪ガタガタいわせながらキャリーカート引いてお出かけしているのを見ても、それほど変とはおもわない、行き交うひとびとが奇異の目で見返してきても、だって元ロックスターなんだし、あんなでかい家に住んで遊んで暮らしてるんだからマトモじゃなくて、あたりまえ。でも、「何か変だ」いわれて、そういえばという気にもなってくる。たしかにね、引きこもりのくせに化粧する必要性がどこにあるの? いい歳して。
で、なんかよくわからない人間関係やら過去の出来事やらをちらつかされながら、いまさらながらの父との絆とりもどし大作戦、みたいなのが始まるんですが、だから、物語の核みたいなのは、けっこうありきたりなわけで、それでも、シニカルマイスターみたいな主人公のみょうちきりんさが、やっぱり魅力的だったりで、ゆく先々で出会うひとたちとのその場かぎりのやりとりが、軽妙であったりそのわり意味深そうであったり、景色は鮮烈、たしかに「人生は美しさで満ちている」っぽいしで、ロードムービーの醍醐味たしかに。まあちょっと、出来過ぎっぽいかんじはあるのですけれど。あまりの名探偵ぶりに、こちらがついていけないぐらい。
でもせつない。お話ありふれてて現実ばなれしてても、せつない。カタキ討ち、でしか、もはや親子の愛情をたしかめられない、みたいなおもいこみが、それでいったいどうするの?的な、やる気がありそななさそな追跡劇をかろうじて続けさせるのだけれど、クライマックスで語られるように、本来なら醜悪で捨て去るべき復讐心でさえもが、常軌を逸した現われかたをすると、へんに希有な魅力すら宿って、どころか崇高な気配までもがただよって、目が離せなくなるのは、なぜ。純真さ、なのでしょうか。なにかを成し遂げてみせる、という熱意。相手にこちらの気持ちをまっすぐぶつける一途さ。
父親が遺していった執念のあとかた、詩のような言葉がどうってことない内容なのに、こころにしみて、だから、ショーン・ペンのわかりやすすぎて、ちょっと安直な成長物語も、それなりに寄り添うきもちで見守ることができるのだけれど、とはいえ、このラストってどうなの? と突き放された印象はあって。いやほんとどうなの? もしやすべては幻だった? 異様に気になる、トニーって何者よ。
ところで、おもいつきではあるのだけれど、これなんか、『ツリー・オブ・ライフ』のべつバージョン? コミカルにわかりやすくアレンジするとこうなったりして。さらに快作『プルートで朝食を』とも雰囲気ちょっとかぶっているような、あれは素敵だったキリアン・マーフィ。
きっと ここが帰る場所 2011年イタリア=フランス=アイルランド パオロ・ソレンティーノ監督作品
公式サイト http://www.kittokoko.com/
(中島遥香)
+ + + + + + + + + + + + + + +
Posted by eしずおかコラム at 12:00