2012年10月18日
第6回 映画 「セブン・デイズ・イン・ハバナ」

オムニバスって、なんかお得のような気がして、あの監督のもこの監督のもいっぺんに、それぞれ時間は短いわけだけれど、だからきっと、ギュッとつまったエッセンスが楽しめるかも、という期待感もあったりして。ハバナって場所がまたぐいっと吸引力、というのは以前『永遠のハバナ』という作品に、深く酔いしれたことがあったから。
月曜から日曜にかけての一週間が、まったくべつの物語でつながれるのだけれど、うまく異国情緒にひたれるような親切設計、しょっぱなの月曜は、アメリカ人がタクシーで観光するのに相乗りさせていただいての、ハバナ入り、そして、徐々にその暮らしぶりに近づいて入りこみ、日曜にはちいさなアパートでのパーティーの準備に参加させていただいて。七つの物語には、それぞれ直接の関係があるとも限らないのだけれど、おなじ空気感が漂い、それが次第に色濃くなってゆくここちよさ。うだるような暑さを弾き飛ばす、躍動感が、全編にみちて。
異邦人であるこちらがわに、価値観や文化のちがいをちらつかせ、さすがに違和感をおぼえたりもするのだけれど、憧れのほうがやはり勝ってしまうのは、魂にはたらきかけてくる解放感のせいでしょうか。描かれる場面は多彩で、そこに根ざす倫理観、宗教観、社会的、経済的な問題が、さりげなく、あるいははっきりと顔をみせるのだけれど、共通するのは、揺らぎながらもそこに存在するあらゆるものへの感謝と敬愛のきもち、そしてそれに裏打ちされているかのような生きてゆくうえでの力づよさ。自然な欲求をたいせつに、自分の輪郭をしっかり描く芯のつよさ。
いやともかく、個人的には、エリア・スレイマンさまに会えたのがうれしくて。なんなんでしょうかあの、登場してくれるだけで、わくわくしてしまう、風貌は。お、でたでた、と心のなかで、さして根拠のない拍手拍手、べつに、ハバナでなくてもいいのでは? ともちょっとおもったりもするけれど。ハバナの海をぼうっと眺める、海辺にたたずむひとたちのそれぞれの物語が、さりげなく想像できるような、広がりのあるとらえかたが、うれしくて。
戸惑ったり酩酊したり悩んだり怯えたり待ちあぐねたり慌てたり騒いだり、の一週間、バタバタしてしまいながらも、いつのまにかそこに暮らすひとたちの視点に落ち着いて。でも待てよ? いったいなにが起きてたんだっけ? せっかくの楽しい旅の記憶があやふやな不安におちいっても、ちゃあんと復習させてくれる、エンドロールでの気の遣いよう。ありがとう。でもやっぱり、『永遠のハバナ』の満足感まではちょっと届かず。
セブン・デイズ・イン・ハバナ 2012年フランス/スペイン
ベニチオ・デル・トロ/パブロ・トラぺロ/フリオ・メデム/エリア・スレイマン/ギャスパー・ノエ/ファン・カルロス・タビオ/ローラン・カンテ 監督作品
公式サイト http://7dayshavana.com/
Posted by eしずおかコラム at 12:00