2012年08月09日
第2回 映画 「グスコーブドリの伝記」
冒頭はけっこう感動したんですよ。森の風景のあまりの輝かしさ美しさに。ぐいっとスクリーンにおもわず目をちかづけてしまったぐらい。絵なのこれ? 遠近感もすばらしく、3Dでもないのにものすごく立体的で。けれど、主人公やらが登場してお話が始まると、その期待感にいささか陰りが。
アニメーションという手法の限界は、たしかにあるとはおもうんです。完璧すぎるんですね、世界観がどうしても閉じられて感じられてしまって。たとえば登場人物ひとりにしても、多くのひとが関わって作り上げられる。生身のひとりの人間が不器用に演じるようなおもしろさは、そこにはあまり期待できない。アクシデント的な奇跡的な驚嘆にあたいする瞬間が現出するとは、ちょっとおもえない。
それでも、実写では描くことのむずかしい世界を自由に表現できるという魅力はあるのだから、もっと夢をみさせて欲しかった。原作よりもちいさい世界に落ち着かないで欲しかった。そもそも、言葉でいろいろ説明しすぎじゃないの? それでこうなったああなった、とか、せっかく映像という表現方法をえらんでいるのだから、そっちでなんとかならないの? 飢饉の恐ろしさとか、あんまりつたわってこないんですけど、おなかすいた、とかそんな台詞いわれたって、なんか体もやせてないし顔色??もよさげだし、宮沢賢治の世界をスクリーンに、という暴挙にでるならば、それこそもっと「ハラくくって」、賢治先生の言葉などに頼らないで、彼の世界観をゆたかに表現してほしかったのだけれど。
言葉でつづられた短編小説よりも、2時間ほどつかって描かれた映像表現のほうが、抽象的でリアリティがない、というのはやはり残念だとおもうわけです。主人公はさまざまな経験をするのだけれど、なかには夢オチみたいな処理もされてたり、どのぐらいの年月どのぐらいの距離を移動しての話なのか、その重さ深さがつたわってこない。雨ニモマケズ、は、まあこれは個人的な受け止めかたかもしれないけれど、あれは激しい自己嫌悪と裏表の(丈夫ナカラダヲモチ、は泣かせる!)せつない願いで、だから、むしろ、ブドリくんこそが、その境地に達してその言葉をほとばしらせた、とでもいうような物語であってくれたら、とすらおもってしまう。理想としておもいだすぐらいで実践できるようなものであっては困るというか。
けれど、バンドネオンはよいですね小松亮太。それでまた最初わくわくしすぎてしまったのかもしれないのだけれど。しかしいきなり真っ黒の背景に製作陣の名前がえんえん映しだされる、という工夫のない始まりは、どうなの? バカにしてんの? といいたいぐらいで。
グスコーブドリの伝記 2012年日本 杉井ギサブロー監督作品
公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/budori/
(中島遥香)
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Posted by eしずおかコラム at 12:00