2013年04月04日
第17回 映画 「二郎は鮨の夢を見る」

ミシュランガイドの三ツ星を獲得、という話題はけっこう鮮明にあたまにのこっていて、 とりわけたしか意外なほどの店構えのちいささ、が評判になっていたけれど、たたずまいがもう、いやほんとこれが世界に紹介されるほどの空間だとは、と驚いてしまったんですが、そして予約制のそのお値段、あー残念だけれどとても行けない、こころのなかで深いため息、でもいつしか、そんな贅沢な時間を持つことを考えてみても、なんて。
冒頭の二郎さんの仕事に対する心構え、みたいな言葉からすでにガツンと響いてくるところに、これでもかこれでもか、彼をとりまく方々の、妥協を許さない姿勢が畳みかけるいきおいで映し出されて、これはいわゆるプロジェクトなんでしょうね、ひとつの、お客様に究極のお鮨を提供してこのうえない至福の瞬間をもっていただく、という目的のために、みながそれぞれ全力を出し切って疾走する、みたいな。一度も、がっかりさせられたことはない(1人3万円以上なのに!)、それってすごいこと、という言葉の説得力。
とはいえ、料理に派手さはまったく見受けられない、そもそものシンプルさということもあるかもしれないけれど、なのにそれでも日々、常にさらなる高みを目指している、というのがいくらか凄味さえ感じられるほど。鮨、というすでにある形式のなかで、充分確立されている美味しさの定理みたいなものを尊重しながら、満足することなく繊細な工夫をこらすことに夢中、コースの進行は交響曲さながらのうつくしさとのこと。
たしかにすべてがリズミカル、おなじことの繰り返しではありそうだけれど、所作の端々まで神経がゆきとどいている気配が感じられて、たとえば店の脇の地下通路で海苔をくりかえし炙る様子にもどこか熟練の風情、ながれるミニマル音楽の反復性と同調しながらの微妙な起伏には、もはや芸術なのかもしれない優美さ、それが地下の10席ほどの店で奏でられるというギャップの妙、ぎゅっと凝縮された贅沢な雰囲気。
思い返されたのが『エル・ブリの秘密~』の、いくらか大掛かりな商品開発、お客様に最高のもてなし、という主軸はおなじながら、アプローチの仕方は対極のようで。
映像は舞台となる店を飛び出し、六本木の姉妹店、築地市場の競りの活気までつたえてくれて、時代もさかのぼり、二郎さんの故郷、浜松市までつれていってくれる。息子さんたち、お弟子さんたち、市場の仲買さん、お米屋さん、食通の批評家さん、それぞれの生きた言葉から浮き彫りになる至高の鮨の背景に、膝はたびたび乗り出して。
ところで音楽フィリップ・グラス、楽しみにしていたんですが、まるっきり『めぐりあう時間たち』の使い回しというのはちょっといくらなんでも……。
二郎は鮨の夢を見る 2011年 アメリカ デヴィッド・ゲルブ監督作品
公式サイト http://jiro-movie.com
Posted by eしずおかコラム at 12:00